海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
「アンタ、相葉先生のとこに随分通ってるみたいだけど何なの?」


先輩の一人が私を睨みながら更に近付いてきて、必要以上に細くした眉が“これでもか”と言わんばかりにつり上がっていた。


「え…?」

先輩が余りに接近してくるので、私は後ずさりして廊下の壁に背中をつけてしまった。


「自分の事を“特別”とでも思ってるわけ?」

更にもう一人も鋭く睨みながら腕組みをし、イライラしている様子を全身から漂わせた。


「そんな風に思っていませんけど…。」


それは本心だった。


“自分が特別だ”なんて思っていない。

むしろ“特別になりたい”と、いつも願っているのだから。


「その割には自分だけ検定でワープロ持ってきたり、常に相葉さんの傍をチョロチョロして、見ていてムカつくんだよね。」


先輩が言っている事を聞きながら、

『この人達も検定を受けてたんだ…。』

そう思った時だった。



「俺がいいって言ったんだ。」


横から突然声がした。


『!!』


私も先輩達もほぼ同時に驚きながら声がした方向を見ると、ちょうどパソコン教室から出てきた相葉先生が立っていた。


「俺が自宅から持ってきていいって言ったんだからいいだろう?なんだったら、お前達も次の検定の時に使ってもいいんだぞ。」


「…。」

先輩達は、途端に二人とも無言になり、


「いえ、もういいです。」

そう言ってちらりと私を睨むと、慌てて戻っていった。


その場に残された私は、ただ呆然としていた。


今まで色々言われたけれど、呼び止められたのはこの日が初めてだった。


「大丈夫か?」

相葉先生が少しかがんで私の顔を覗き込んだ。


「あ…はい、すみません。」


そう言って、私は「ははっ」と笑った。


その笑顔は、きっと引きつっていただろう。


あんな場面を相葉先生に見られた事がとても恥ずかしくて、とてもショックだった。
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