海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
あのパソコン教室にまた入る日が来るなんて、本当に思ってもいなかったんだ。


それに、私にとってこの学校のパソコン教室は、ただ学んだだけの場所ではなくて、


何度も相葉先生に会いに来て、幸せに感じた事も有れば、想いを伝えて傷ついた事もある場所。


色んな意味で、特別な場所だった―…



ぼんやりとその時の事を思い出している内に、私達はパソコン教室前に到着し、入り口のドアを相葉先生が開けた。


中に進むにつれて妙に緊張し始めたのは、だんだん、あの頃の記憶が蘇えってきたからかもしれない。


そんな私を背にしていた相葉先生は、


「懐かしいだろう?」


そう言って先に通路を進み、教壇へと向かっていた。



「すごく懐かしいです。あっ!確か私、この辺の席でした。」


私は消えかけている記憶を手繰り寄せながら、立ち止まり、おぼろげに思い浮かべた場所を指差した。


相葉先生は振り返ると、私が指を差している辺りを見た。


「うーん、そうだったかもな。」

「…先生、適当に言ってるでしょ。」


相葉先生は疑う私を見て「アハハ」と笑うと、


「ところで、この教師用のパソコンのパスワードは教えたっけ?」

まるではぐらかすかのように問い掛けてきた。


「あ、まだでした。」


元の自分の席の事は置き去りにして、私は教壇に立つ相葉先生の元へと足早に向かった。


それから教師用のパソコンを目の前にして、教えてもらったパスワードを忘れないように、持参していたメモ帳に書き残した。


相葉先生はそのまま周辺機器の使い方を説明すると、


「あぁ、あとこっち。」

そう言って、準備室の方へと入って行った。


準備室のドアが開けられて相葉先生が入っていった途端に、胸は高鳴り、苦しささえも感じた。


準備室が、パソコン教室の中でも一番思い出深い場所だから。


特別すぎる場所だから。


卒業式の日、一番最後に相葉先生とお別れした場所もここだった。


相葉先生にキスをした時の記憶は、今でもハッキリと私の胸の中に残っていた―…
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