海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
『相葉先生も覚えているのだろうか…。』


そう思っただけで、私は恥ずかしくて中に入るのを躊躇した。




「…河原?こっち。」


そう言って、相葉先生が入り口で立ち止まっている私を手招きしながら呼んでいる。


「はい…。」


私は『先生は忘れていますように』と願いながら、中に入った。



「ここの席は河原が使っていいから。もしかしたら中に物が入っているかもしれないけれど、気にしないで。」


相葉先生は話しながらその隣の席に座った。


そこは、私が在学中にも相葉先生が使っていた席で、


『変わってないんだなぁ…。』


と、大切な最後の記憶と変わっていない事を、少しだけ嬉しく感じた。



そして私もつられるように、相葉先生が示した席の椅子を引いて腰掛けた。


私と相葉先生の席の真正面は窓で、木々の間から漏れる日差しがブラインドの隙間から差し込んでいた。


よくよく見ると、準備室の中も私の在学中の頃とそんなに変わらないような気がした。


机が一つ増えている位かもしれない。



「ここも懐かしい…。」

思わず零れた私の言葉に、



「よく来てたもんなぁ。」

そう言って、相葉先生は視線を窓の外に向けて微笑んだ。

そして、


「そうだ、打ち合わせだったよな。」

「あっ、はい!」


相葉先生のその言葉で、本来の目的が打ち合わせだった事を私は思い出したのだった。


生徒さんに説明する上で相葉先生と合わせておいた方がいい事や、テキストの中で今日から進めていく場所の確認。

その他諸々の話が終わると、


「…後は河原先生に任せるよ。」

相葉先生は、そう言って微笑んだ。
< 416 / 446 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop