海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
「は…っ」

相葉先生の唇が離れた時、ふと我に返った私は、


「誰かに見られちゃうかも…。」


そう言って、キョロキョロと準備室とパソコン教室の間にある小さめの窓に視線を移した。


もしかしたら生徒さんが教室に入ってくるかもしれないし、はたまた他の先生がやってくるかもしれなかったから。


「心配性だなぁ。」


クスッと笑った相葉先生は私を抱き締めたまま、腕を伸ばして小さな窓のブラインドを閉めると、


「これでいい?」


そう言って、もう一度優しく私の頭を撫でた。

それでも私が準備室の入り口と相葉先生を交互に見つめて、


「だ、誰かが入ってくるかもしれない…。」

そう言うと、


「はい、はい。」


相葉先生が私を抱き締めたまま、再び体をずらして鍵をかけた時、温かな腕の中で、カチャンという金属の音が聞こえた。


「もういいだろう?」


「多分…でも、あっちから誰かに見られるかもしれないけれど…。」


私と相葉先生が使っている机の向かいにある窓を見ながら、心配そうな表情を浮かべている私につられて、相葉先生も同じ窓を見つめた。


そして、


「…鍵も開けっ放し、ブラインドだって全開になっていた所があったのに、ここでキスしてきたのはどちらさんでしたっけ?」


そう言って、また相葉先生は意地悪な笑顔を浮かべた。


先生が言っている事は間違いなく、あの卒業式の日の出来事だった。



「もう!そうやって恥ずかしい事ばっか…」


わめき始めた私に、相葉先生はもう一度キスをした。


今度はさっきよりも長く。

より深く、相手を感じられるようなキス―…


全てが溶けてしまいそうになりながら、

今のこの瞬間が、現実に起きている事なのだと実感していた。
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