海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
唇を離した相葉先生は、しっかりと私を抱き締めたまま口を開いた。


「あの時のキスで、河原の事が忘れられなくなったんだ。」


「え…?」


相葉先生の腕に包まれたまま、私が問い掛けると、


「だって、あんな事されたのは生まれて初めてだった。後にも先にも、あんな生徒は河原だけだったよ。」

そう言われて、


『自分はどれ程大胆な事をしたんだろう』


と、今更だけど恥ずかしくてたまらなかった。


「ありがとう。」

突然、相葉先生にお礼を言われて、


「えっ?」

何かを問うような表情を浮かべていた私に、


「またこうして会えた事。あんなに傷付けたのに俺の気持ちを受け入れてくれた事。そして好きになってくれた事…全部、ありがとう…。」


相葉先生は申し訳無さそうな優しい笑顔を浮かべて微笑むと、強く、強く私を抱き締めてくれた。


「先生…。」

それに答えるように、私も相葉先生を強く抱き締めた。



「待たせてごめんな…?」

「…先生…っ」


耳元で相葉先生が囁いたその言葉で、ますます私が泣き止む事はなかった。


嬉しかった反面、


『今日までの間、大崎先生との事だけではなく私との事まで、相葉先生はどれ程自分を責め続けていたんだろう。』


そう思っただけで胸が苦しかったからだ。


私と同じように先生も辛い時間を過ごしていたのに、


それなのに“ありがとう”と礼を言う相葉先生を責める理由なんて、私にはこれっぽっちも無いんだから―…



私はありったけの気持ちを込めて、相葉先生に囁いた。


「相葉先生が大好きです。」


そう、心を込めて―…




こんなに回り道をして、


こんなにお互いに傷付かなければ


私達の想いが通じ合う事はなかったのかな―…?


こんなに愛しいと想える人と結ばれる為には、


こんなにも長い時間が必要だったのかな―…?


ねぇ、先生。


私と出会って良かったですか?


こんなに辛い時間を過ごしていても、


私と出会って幸せでしたか―…?
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