To be alive again
「先生…お母さんは?」
今まで話した中で、彼は母親のことを口にしていなかったから。
聞いて良いのか、少し躊躇った。
「…大学3年の時に亡くなった」
返ってきた返事に、やっぱり聞かない方がよかったと思ってうつむいてしまった。
「…ごめんなさい」
彼はそんな翠を見て優しく笑う。
「隠すつもりも無かったから気にするなよ。
長く病気だったから。
覚悟する時間も十分あったし、ちゃんと見送ったから大丈夫。
親孝行も十分したと思うし、渚が」
俺は大したことしてない、と言っていたずらっぽく笑う。
そんな風に笑うのに、彼の横顔はやっぱり少し寂しそうに見えた。
シフトレバーにかかっていた彼の手に、そっと手を重ねた。
こんな表情もする人なんだと、初めて知った。
彼はいつも“先生”だったから。
彼はいつだって翠よりもしっかりしてて、支えてくれて、守ってくれて…そして、導いてくれたから。
自分もちゃんと、彼のことを支えてあげられるようになりたい、そう思った。