ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜


『朔は、“瑠奈が幸せなら無理に戻ってこなくていい”なんて言うんだ。だけど俺は納得いかない。親や兄弟を捨てて、どこに行ってるんだよ。朔が大変な時だって知ってるのに。お前、どこにいるんだよ』


朔……。携帯を持つ手が小刻みに震えた。朔はわかってたんだ。私が元の世界で居心地悪い思いをしていたことを。自分を惨めな存在だと思っていたことを。そして、この世界に心を救われたことも。


「言えない。帰れない」


朔はきっと、死んだりしない。そんなことがあるわけない。それに、決心したはずだ。もう二度と、朔には会えない。元の世界の両親も友達も幼なじみも。それでもいいから、こっちに来たいと願った。


『どうしてだよ』

「だって……」


口にするには、私の理由はあまりにも幼すぎた。ただ、寂しかった。誰かにかまってほしかった。愛してほしかった。そっちではそれがかなわないから帰りたくない。そんなこと、言えない。まるで子供みたいで。


『嫌なことがあったなら、俺なんでも聞くって。穂香も力になるって言ってくれてる。だから、戻ってこい』

「何でも聞くって……」


じゃあ、私が想史が好きだから彼女と別れて付き合ってって言ったら、そうしてくれるの? してくれないよね。想史はそんな軽い男じゃないもん。


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