ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜


想史がそんな乱暴な言葉で声を荒らげているのを初めて聞いた。こっちはハラハラしているのに、隣の想史は何食わぬ顔。


「あのね、瑠奈はどこにもやらないから。あんたは帰って来いって言うけど、瑠奈にとってはこっちがホーム、そっちはアウェーなんだよ、きっと」


さすがサッカー男子、例えが独特でわかりにくい。なんて思っている場合じゃない。


「瑠奈はこっちで楽しく幸せにやってるんだ。だから、そっちには帰せない」

『は? おま……』

「瑠奈はこっちにいる方が幸せなんだよ」


だんだんと大きくなる想史の声が土管の中で反響する。


「他に女作って、瑠奈のこと殴るような男がいるところ、瑠奈は帰りたくないってさ!」

「あ、あの想史、一回黙って」

「お前が瑠奈に優しくしてくれるんなら、瑠奈は帰るかもしれないよ。さあ、どうする?」


ちょちょちょ、ちょっと待って。それじゃ告白もしてないのに、元の世界の想史に私の気持ちがダダ漏れじゃない。いくら男子が鈍い生き物でも、そこまで言えばわかっちゃうよ。余計帰れないよ。

びくびくして向こうの返事を待っていると、震えたような声が聞こえてきた。怒っているのか、正体不明のもう一人の自分の存在に怯えているのか。


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