ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜
「こんな平凡な私でも、生きてていい?」
自慢できる友達でも、自慢できる幼なじみでもない。なんのとりえもないごく普通の私だけど、それでもいいですか?
『当たり前だろ!』
即座に想史が断言する。その声があまりに力強くて、土管の中に大きく響いた。
「ありがとう」
携帯の画面をそのままに、隣の想史を見つめる。
「私、行かなくちゃ」
私のことを好きだと言ってくれたこの人にお別れを言うのは悲しい。でも、このまま朔とお別れになってしまうのはもっとつらい。
見つめた想史は眉を下げていたけど、優しく静かに微笑んでいた。
「うん。俺、何となくわかってたよ。瑠奈が違うところからきているって」
「えっ?」
「だってさ、ちょっと前の瑠奈、俺と付き合ってることさっぱり忘れてたんだよ。それで不思議なこと言うんだ。天国みたいな場所でさまよってたって」
ちょっと前の私。それは、もともとこの世界にいる私のことだろう。ふと脳裏に二度目にこっちの世界に来る直前の景色が甦る。迷子になってしまった魂がシャボン玉みたいにふわふわ浮いていた、真っ白な世界。たしかに、天国みたいだった。