ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜


「公園に行かなきゃ」


小ぶりになってきた雨の中へ出る。ばしゃりと飛んだ水と泥がローファーやソックスを汚した。

どれくらいここにいたんだろう。空は雨雲が垂れこめていて暗い。こんなんで、月が見えるだろうか。一抹の不安がよぎる。

二つの月が重なった瞬間、元の世界とこっちの世界を通じる道ができる。あのすべり台の上でそれを見れば、きっと帰れるはずだ。だけど、月が見えなかったらどうなるんだろう。


「考えてる暇ないだろ。行くぞ」


想史は私の手を引き、走りだす。水たまりを避けもせず、最短距離を全速力で走る。

彼には何も関係ないはずなのに。そんなふうに走ってくれる背中が愛しかった。絶対に忘れないでおこうと心に決めて、私も走った。


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