ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜


「どうしよう……すべり台がなくなってる」

『なんだって?』

「想史、見たって言ったよね。私、公園のすべり台から違う世界に来てるの。信じてくれる? そのすべり台が、雷でやられて真っ黒焦げで、バタンって倒れちゃってて……」


一生懸命こっちの想史にしたのと同じ説明しようと思うのだけど、目の前の無残な状況を見ていたら悲しくなって、涙声になってしまった。自分でも何を言ってるのかわからなくなってくる。


『信じる。俺、お前のこと迎えにいけないかと思って何回か昇ってみた。でも俺じゃダメみたいだ』


真剣な声でそう言ってくれるから、少し落ち着いてくる。誰かが無条件に自分のことを信じてくれる。それだけで勇気が湧いてくるような気がした。


「他の手を考えてみる。一度切るね」


どうしようどうしようって言っててもどうにもならない。なんとかしなくちゃ。携帯をしまって考える。


「他に……どこか他に、月が二つ見えそうな場所は……」


そう言いながら上空をにらんでいると、不意に強い風が吹いた。雨雲が流されていく。ぽっかりと空いた空を見て、愕然とした。

月が浮かんでいる。いつのまにそこにあったのか、一つきりの月がくっきりと浮かんでいた。猫が鋭い爪で引っ掻いたような、下弦の月……。


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