ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜


「なあ瑠奈。俺にはあれ、ひとつしか見えないんだけど」

「私も……」

「マジか」


もしかしたら私だけに月は二つ見えるのかもと思ったんだろう。だけど空には間違いなく、月は一つしか浮かんでいない。

焼けて死んでしまったすべり台を見ると、泣きそうになる。でも、他の手を考えなきゃ。こうしているうちに朔に何かあったら……。


「うう……」


考えろ、瑠奈。考えろ。何か手がかりはない? すべり台と月の代わりに、あっちの世界に戻れる方法は。

いっそ、思いっきり硬いところに頭をぶつけてみるとか。崖から飛び降りてみるとか。

いやいやそうじゃない。どうしてだろう。私、知っている気がするんだ。他の世界から元の世界に戻る方法。もちろん、月とかすべり台とか、全然関係なくて。

誰だっけ。誰かが、私に教えてくれた。


「あ……」


頭の上に雷が落ちたように、ある光景がちかちかとまぶたの裏によみがえる。それは、病院で面会したときの朔の姿だった。


『ぶっ倒れてる間、不思議な夢を見た』

『夢?』

『普段通りのなんてことない生活の夢なんだけど、お前がいなかった。失踪とかじゃなくて、最初からその世界にはお前は産まれていないみたいだった』


あれは……もしかして朔も、意識だけ別の世界に行ってしまってた?


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