ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜
「想史、あの川に連れていって。あの、コスモスがいっぱい咲いてた……」
「あそこ? けっこう遠いけど。あそこからなら、帰れそうなのか?」
「わからない。ただのカン。だけど、行ってみたい」
どのみちここでこうしていても、帰れなさそうだし。なら、心当たりの場所に行ってみなきゃ。
「わかった。うちから自転車に乗っていこう」
「自転車?」
「ママチャリならスピードは出ないけど、二人乗りができる」
要は想史のお母さんのママチャリの後ろの荷台に私が乗っていけばいいってことね。
「風強いけど大丈夫? 二台で行った方が良くない?」
「大丈夫。多分俺が全力でこいだ方が速い。田んぼの横の道、狭いし」
それなら、と想史の言葉に甘えることにした。想史の家はすぐそこだ。カーポートの後ろの方におばさんのママチャリが置いてあった。想史が家から鍵を持ってすぐに戻ってくる。
「ちょっとあんたったち! こんな日に人の自転車乗ってどこに行く気なの! 戻ってらっしゃい!って言うか、自分の自転車使え~~!」
勝手にそれに跨っていく私たちの背中に、玄関から飛び出したおばさんが叫んでいた。ごめんなさい、おばさん。想史の自転車は、荷台がないんです。
ぎゅっと想史の腰に手を回す。雨で濡れた制服のシャツに頬を寄せ、なるべく風の抵抗を受けないようにした。