ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜
さすが男の子、想史は最初のスタートこそ苦労していそうだっけど、スピードに乗ると一人乗りと同じくらい、びゅんびゅんと風を切っていく。
運良く赤信号にもつかまらず、軽快に学校近くの道を通っていた、そのとき。
「こらっ、そこの二人止まりなさい!」
後ろから古いマイクを通したようなざらついた声の警告が聞こえてビクッとする。振り返ると、赤いランプを点灯させたパトカーが私たちを追いかけてきていた。
「二人乗りはやめなさーい!」
止まらない私たちに対してなおも警告してくる。そういえば、ここらへんの条例では自転車の二人乗りは禁止だっけ。“専用シートに乗った幼児とお母さんだけが例外です、他は禁止。捕まったら罰金刑にあたる場合もあります”って、小学校の時の交通安全教室で聞いた気がする。そんなことまで、二つの世界は同じなのね。
「想史、素直に降りよう」
いくら想史が早くても相手は車。逃げおおせるはずがない。あまり大きなトラブルになると、想史の進学や部活に影響が出てしまうかも。それは避けたい。
「ダメだ! 急がないと、お兄ちゃんに会えなくなるかもだろ!?」
前を向いたままそう怒鳴り、想史はペダルをこぎ続ける。すると、学校の敷地から突然二人の大人が飛び出した。