ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜
「げっ!」
想史がついにブレーキをかける。キュルキュルとタイヤが地面にこすりつけられる。水で滑った自転車はカーブを描き、なんとか出てきた人たちにぶつからずに止まった。
「さっき、近所の人から通報があったぞ! お前ら何やってんだ!」
怒鳴ったのは頭髪がかなり薄くなってきている教頭先生。制服を着たまま収まりきらない嵐の中を自転車で、しかも二人乗りで爆走している生徒がいる。きっと誰かがそう言って学校に電話をかけたんだろう。
「探す手間が省けて良かった。とりあえず職員室へ」
もう一人は筋骨隆々の体育教師だった。教頭先生がパトカーの方へ話しにいく。
「はい、うちの生徒です。よく言って聞かせますので。すみません」
ぺこぺこと薄い頭を下げている。前にはムキムキ体育教師。後ろにはパトカー。もう逃げられない。
絶望的な気持ちで荷台から降りると、想史がこっそり耳打ちしてきた。
「これ、お前にやる。だからお前だけでも逃げろ」
「え……?」
ぺんぺんと自転車のハンドルを叩かれても。ここから私だけ自転車に乗って逃亡しろって?
「できないよ」
そんなことしたら、想史にどれだけの迷惑がかかるか。