Maybe LOVE【完】
それって興味がないってことなんじゃないの?と口にしようと思ったけど、なぜか腰にカオルの手が添えられたから言えなかった。
「舌打ちは無意識だ。お前がここにいる間は俺の思うように事が運んだことがない。俺は常にお前に振り回されてる。それにイラつくし、そうなる自分にも腹立つ。でもお前が相手だからそれでもいいんだ」
言ってることがよくわからない。
やっぱり迷惑なだけなんじゃん、と小さく溜息を吐くと「わかってねぇ」と盛大な溜息で返された。
「お前、俺がどんなに我慢してるかわかんねぇだろ。こうやって超至近距離で話してる間もお前は俺の話を聞きながらボーっとしてるけど、俺はじれったくてしかたねぇ。この距離で止まるってことが俺にとってどんなにストレスがお前にはわからねぇだろ。だいたいお前は、」
「簡潔にお願いします」
ここから長い話が始まるのかと思ったら、この至近距離なのもあって一気に疲れてくる。
もちろんカオルは舌打ちをしたけど、それに気付いたらしく視線を外して居心地が悪そうにした。
何を言いたいのかわかるようでわからない。
キスしたいってこと?と言えば「あぁ」って言われそうだし、エッチしたいってこと?って聞けば、これも「あぁ」と言われそう。
好きだと言われても言われなくても、結局そういう関係になるのかな?って何度か考えたことがある。
今までのあたしはそうだった。
家に泊まっても何もしてこなかったのはカオルが初めてで、そういうカオルだからこそ安心感があるんだと思う。
だけど、今のカオルの言葉だとカオルはそうではないって言ってるのと同じだし、そういう気持ちはあるって言ってる。
だったらしてもいいんじゃないかって思った。
そりゃ多少…いや随分信用して安心しきってしまった相手だから、多少の胸の痛みはあるかもしれないけど。
「…そうやって諦めたような顔するから俺がいつまで経っても手が出せないんだっつーの」
カオルは少しあたしから距離を取ると頬にキスをして苦く笑った。
「俺がお前を好きだって言ったら、そういう対象で見るだろ。それはそれで俺の下事情にとっては好都合だけど、お前の心が手に入んなきゃ意味なんだよ」
「下私情ってなによ」
「そこツッコんでくんなよ。流せよ」
「だって、」
「あ?」
「ココロって何」
「は?」
「あたしのココロって何」
カオルがあたしと距離をとっても一ミリも動かずにカオルを見つめてた。
カオルの言葉を、あやふやにする言葉を、わざと濁す言葉を、ちゃんと聞きださないといけないような気がした。
こんな空気にしたんだから責任取らなきゃいけないのはカオルだと思う。
「お前、俺の話聞いてたか?」
「聞いてた」
「で、なんでそんなこと聞くんだ」
「聞きたいから」
困ったような、戸惑ったような表情をするカオルを見ながら、“今日が最後だ”と思った。
このあとカオルがどんな言葉を言おうと、こうして隣に座ることはなくなるような気がした。
短くて長い二ヶ月だった―――そう思うと、胸が痛くなった。
「なんだよ、なんでそんな顔するんだよ」
あたしが目を閉じるとカオルの手が再び頬に触れて、その温もりがカオルを少し愛おしくさせた。
その手に自分の手を重ねるとカオルが何回目かわからない溜息と舌打ちをした。
「もう知らないぞ」
その言葉にあたしが目を開けると、さっきと同じ至近距離にカオルの顔があった。
いや、それよりも近いのかもしれない。
触れていた手であたしの顔を少し上に向けて話せばくっつくんじゃないかって距離にいた。
「俺はもうお前に触れることを我慢するつもりはない。今、決めた。でもここから先は俺から動かない。俺と付き合って、俺のことを好きになる気があるならお前が動け」