Maybe LOVE【完】
言葉を遮られて、後ろから伸びてきた右手。
その手の上に携帯を乗せろと言ってるんだと思う。
「嫌」
断るに決まってる。なんで携帯を貸さなきゃいけないの。
羽織っていたパーカーのポケットに入れたのを取られた。
「ちょっと!」
「なにこれ、犬?」
勝手に携帯を開いて待受の写メを見て聞いてくる。
待受は私の愛犬との2ショット。可愛くてずっと変えずに残してるやつ。それに対して返事をしない私のことはどうでもいいのか、勝手に携帯をいじってる。
別に見られてヤバイものとかないから勝手にしろ、と思って放ってた。
カチカチと何かをする音。
何かあったとしても、私のメモリーを移したとかそんなことだと思うし、悪用されたらされたで携帯を替えればいい、そう思ってた。
「端末暗証番号くらい変えろよ」
そういって返ってきた携帯の何かを確認することもなく、そのままパーカーのポケットに入れた。
「何したか気にならないわけ?」
「別に。どうとでもなるから」
一度ポケットに入れた携帯を取り出し時間を確認する。
「20分も経ってる・・・」
予定の10分を大幅に超えた20分で、この人のせいで予定が狂った。
10分伸びたことで、あの空間にいる時間が短くいなったのはいいけど、また戻るとなると気が重い。
あの空気にあと何分耐えれば帰れるんだろうか、と溜息がこぼれる。
「戻るのか?」
「さすがに戻らないとダメでしょう」
顔を見ることなく、ガードレールとガードレールの間の空いた所まで歩く。この中に入ってしまえば、あとは店に入るしかない。
気は重たい。でも、先輩の顔を潰すのはよくない。
複雑な気持ちで、歩道へ足をかけると見えた靴。誰よ?と顔を上げると目の前には例の男の人。
「俺と抜けない?」
その言葉に唖然とするしかなく、一度店に戻ったものの部屋には戻れず私のバッグを手に部屋を出てきた男が目の前にいて、腕をひかれて外に出た。携帯には早速、先輩からのメール受信。
《うまくいって良かったね!》
何も知らない先輩からの嬉しそうなメール。
この人がどういう説明をしたのかわかわにけど、何も上手くいってないというか、なんでこうなったのかもわからない。
なんとなく理解できるのは、あの空間に戻らなくていいことと、名前の知らない男が放心状態の私を見下ろしている、ということだけ。
「おい」
声を掛けられてビクッと肩が上がる。
飛び上がるっていうの?そこにいるのはわかってるのに、驚いてしまう。
ゆっくりと顔を向けると怪訝そうに顔をしかめた男がいる。
「俺を家まで遅れ」
「はぁ?」
何を言ってるんだろう、この男は。
初対面の、しかも一言二言しか話したことのない女に送れって意味がわからない。
確かに車で来たけど。
空気に耐えられなくて、お酒飲んじゃったけど。
捕まったらどうしてくれるんだろう。
「なんだその顔は・・・あ、携帯忘れた。そこで待ってろよ」
男は私に指をさして命令する。
“待ってろよ”って誰に向かって言ってんのよ。仮にも送ってもらおうとしてる人に指なんてささないでしょう。
なんだから振り回されてるような気がして、男が店の中に消えたのを見てから車へ向かう。
誰が待ってやるかってのよ、そう思いながら少し離れたコインパーキングへ向かった。