「先生、愛してる」


「秋奈」


僕は呼んだ。手を前に差し出す。こっちへおいでと、言わずとも彼女は理解している様子だった。席を立ち、机に手をつく。身を乗り出してこちらに寄ったのを見て、僕も同じように近寄った。


瞳を見つめる。相手の目を見つめるのが癖だと、先生に言われたことがあったような気もする。しかし、確かにそうかもしれなかった。他人の心など僕には知る由もない。ならばそれが一番現れやすい部位から、出来る限り読み取りたいと思うのはおかしな事だろうか。


秋奈の頬に手を添える。かけていた眼鏡を取ると、唇をギリギリのところまで近寄せた。少しでも動いてしまえば触れ合ってしまうほどの距離だ。秋奈もそれを理解しているのか、まるで石のように固まってしまっている。白色だった頬が、うっすらと紅潮してゆくのが見えた。


何の躊躇いもなく触れ合えたなら、どれだけ幸せだっただろう。先生と生徒─────なぜ僕は、又しても同じ過ちを犯そうとしているのか。目の前の少女が堪らなく愛しい。溢れてしまいそうな想いは、寸止めのところで抑えられた。何せ、彼女と暗黙の了解として築いてきた壁を、ここで壊してしまうわけにはいかないのだ。


「ごめん」


秋奈から離れ、背を向ける。外した眼鏡をかけ直した。


「時々、不安になるんだ。いつか全てが壊れてしまって、ここに何も残らなくなってしまうのではないかと思って。触れられない分、心に募っていくんだ」


扉向こうから聞こえてきた男子生徒の声が頭から離れない。秋奈の心が、僕だけのものでは無くなるのではないかという不安が胸の奥を占めていく。

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