例えば君に恋しても
ドキドキ心拍数が早くなるのを感じながら中に入ると広がる大理石の広い玄関
ここが市橋家じゃなくてもこんな家に入るだけで緊張する。
なに食わぬ顔で中に入ると、目の前にある階段を誰かが下りてくる気配を感じて背筋が凍った。
まだ入ったばかりだというのにもう足がすくんで動かない。
情けないけどホラー映画の一番恐いシーンに釘付けになるように、その人影を見ていると
下りてきたのは仁の屋敷で出会ったメイドの一人だった。
「あら、あなた確か前に一度だけ・・・」
「綾瀬です。」
もしかしたらこの人も今回の騒動を知っているかもしれない。
声が震える。
「そうそう。綾瀬さんね。なんだか今日は突然ご子息に婚約者様が揃うとかで大忙しよ。
あなたも来たなら早く手伝って」
「えっ?は、はい。」
何も聞かされていないのか、一瞬で緊張の糸がほぐれる。
「キッチンに香里奈様の大好きな紅茶を用意してあるから運んで差し上げて」
「わ、わかりました。」
まさか、一番出くわしてはならない人にお茶を運ばなきゃいけないなんてっ・・・
動揺しながらもキッチンからお茶を客室に運ぶ。
てか、広すぎて客室がどこなのかも分からない。
広い屋敷の中で迷子になりながら、一つ一つドアをほんの少し開けながら中の様子を確認していく。