例えば君に恋しても


一体、この一つの屋敷に何個扉があるのか・・・


途方に暮れながら、また一つドアを開きかけた時、物凄い力でドアを閉められる。

背中に誰かの気配を感じて

嫌な汗が額に滲んだ。

「新入りかい?

ここは当主の部屋だから、許しがないのに勝手に開けたらだめだよ」


その

優しい声色には覚えがある。

邦弘と似ているけれど

ちゃんと聞けば全然違うね。


振り返ることができない。

「申し訳ございません。」

ぼそぼそ俯きながら、どうにかこの場を切り抜けたいのに、背後の人影は消えない。


その代わり

私を包むように両手がドアに伸びた。

うなじにかかる吐息

耳が熱くなりそう。

「美織・・・ちゃん?」

耳元で私を呼んだその声に肩がビクッと反応してしまった。

けれど沈黙を守っていると遠くから邦弘の声が聞こえた。

「兄さん?帰ってるなら声くらいかけてよ。久しぶりに会えたのに素っ気ないな」

邦弘の声に慌てて体が離れた瞬間、慌てて小走りでその横をすり抜けた。

邦弘がきっと助けてくれたに違いない。

慌てて適当にまたドアを開けた。「失礼します」今度は誰かに呼び止められないように声をかけると

どうやら、目的の部屋だったらしい・・・


窓の外をぼんやり眺めている綺麗な後ろ姿があった。



できるなら振り向かないで欲しい・・・。



「お茶・・・置いておきますね」

静かにトレーをテーブルにのせると

「ありがとう。」

彼女が振り返る。




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