例えば君に恋しても
偶然がよく、重なるものだ。
意識して会いたいと思ってる近場の友達にさえ偶然会うこともないのに、こいつとは、会いたくなくても会ってしまう。
会話する気力も無く、視線だけ逸らして無視をする私を、暫く静かに見つめていた彼が、突然私の体を抱き上げた。
「えっ⁉ちょっ・・・下ろしてよ!」
「人がせっかく好意で声をかけてるのに、無視した罰だよ。下ろさない」
この数週間で一気に体重は落ちたと言えど、40キロはあるであろう私を軽々と抱える細腕。
「なんでこんなことするのよっ!!」
騒ぎ立てる私の顔をちらっと見て、鼻で笑った彼は遊歩道を出ると、人目もはばからず、私を抱えたまま堂々と人通りの多い交差点を渡る。
私の方が恥ずかしくて、両手で顔を覆ってしまうほど、私たちは周りから浮いていた。
何日も着っぱなしの上下スエット女を抱きかかえるスーツ姿の若い男の子。
どうしてこんなことになってしまったのか・・・
暫くしてようやく、つい最近建ったばかりのマンションに入ると私を抱えたまま慣れた手つきでオートロックを解除する。
その最上階の部屋の玄関で、ようやく私とボストンバッグを放り投げた彼は、私を抱えていた腕を自分で揉んだ。