例えば君に恋しても


帰りみち、バスを下りて、来た時と同じように遊歩道を歩いていくと、ビジネスマンらしい若い男性が真新しそうなスーツでお構いなしに地べたに膝をついて何かを探してるようだった。

「何か、お困りですか?」

黙って通りすがるには胸が痛みそうで、仕方なく声をかけると、パッと顔を上げた彼は、私と目が合うなり恥ずかしそうに視線を逸らした。


「いえ、ちょっと・・・」

そう言った彼の視線の先は、私がつい、今しがた前を通りすぎたばかりの自動販売。

「もしかして、小銭を落としちゃったんですか?」

何気なく聞いただけなのに、彼は慌てて言い訳にも聞こえるように「たまたま100円玉を1枚しか持ち合わせてなくてっ・・・」と、またしても恥ずかしそうに視線を泳がせた。

まあ、大の男が100円玉を探して道端で這いつくばってるなんて恥ずかしいことなのかもしれない。


幸せ絶頂期の私にはそんな彼がお小遣いを落とした小さな子供のように見えてしまうから、幸せのお裾分けのように、先程バスで両替してでてきた100円玉を彼に手渡した。


「さっき、あっちで拾ったのあなたの100円だったのね。」

そんな余裕の嘘さえついて、彼に100円を手渡すと、一瞬、私の目を見つめた彼は子供のように笑った。





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