例えば君に恋しても
「すいません。ありがとうございます。」
私から遠慮なく100円を受け取った彼は子供のような屈託ない笑顔を見せてお礼を言うと自販機に向かう。
良いことをすると気分が良い。
たかだか100円。
されど100円。
この蒸し暑い日に飲み物も飲めないんじゃあ、可哀想だしね。
冷たい飲み物でも飲んで頑張れよ青年!!
足取り軽く歩きだした時だった。
ポンッと肩を叩かれ振り替えると、100円の青年が「これっ!」と一枚の名刺を私に差し出した。
不思議に思い、首を傾げると「今回は助けてくれてありがとうございます。
もし、何かお困りなことがあれば気軽に連絡下さい」
たかだか100円を見つけてあげただけだというのに、律儀すぎる青年に、遠慮するほうが申し訳ない気がして名刺を受けとるだけ受け取った私は、小さな会釈をして、踵を返した。
社会人一年生といった所だろうか。
まだまだ青臭い彼に、可愛いげを感じると、ふと、自分の新入社員時代の思い出が浮かぶ。
「私もあんな風に初々しかったのかしら?」
あの頃が、とても遠い昔に思えるのは、私が結婚という大きな人生の機転にいるからなのか、仕事を辞めたホームシック的なものを感じてなのかは、分からないけれど
なんとなく、懐かしい気持ちがほんわかと胸を温めた。