例えば君に恋しても
憂鬱な気持ちで、部屋から出てきた仁は私が選んだのとは別のスーツを着ていた。
予想外のことに、黙って仁を見つめていると、私が何を考えているのか察したように「急にこっちが良くなったから」と呟く。
リビングには峰岸さんが10人くらいで座れるような大きなダイニングテーブルに仁一人ぶんの朝食をセッティングしているところだった。
「おはようございます。今日は珍しく早起きですね」
仁の顔を見るなりくすくす笑いながら椅子を引く。
「うっせぇ。
隣の部屋からのいびきがうるさくて眠れなかったんだよっ」
憎まれ口を叩きながら椅子に座る彼。
って!!
隣の部屋からのいびきって!もしかして私のことっっ⁉
口をパクパクさせる私に気付いた仁は一瞬、私に向けて舌を出して見せる。
けど、その後は何もなかったように食事をとりはじめるから腹が立つ。
今すぐ仁の頭をひっぱたいて、本当に私がいびきなんかかいてたか聞きたい!!
絶対に嘘に決まってるんだから!!
やりきれない気持ちで仁を睨み付けてると、その隣にいた峰岸さんと目が合って、くすくす笑われる。
こんな恥をかかされたのは生まれて初めて!!
顔に火がついたように熱くなる。