例えば君に恋しても


憂鬱な気持ちで、部屋から出てきた仁は私が選んだのとは別のスーツを着ていた。

予想外のことに、黙って仁を見つめていると、私が何を考えているのか察したように「急にこっちが良くなったから」と呟く。


リビングには峰岸さんが10人くらいで座れるような大きなダイニングテーブルに仁一人ぶんの朝食をセッティングしているところだった。


「おはようございます。今日は珍しく早起きですね」

仁の顔を見るなりくすくす笑いながら椅子を引く。

「うっせぇ。

隣の部屋からのいびきがうるさくて眠れなかったんだよっ」

憎まれ口を叩きながら椅子に座る彼。

って!!

隣の部屋からのいびきって!もしかして私のことっっ⁉

口をパクパクさせる私に気付いた仁は一瞬、私に向けて舌を出して見せる。

けど、その後は何もなかったように食事をとりはじめるから腹が立つ。

今すぐ仁の頭をひっぱたいて、本当に私がいびきなんかかいてたか聞きたい!!

絶対に嘘に決まってるんだから!!

やりきれない気持ちで仁を睨み付けてると、その隣にいた峰岸さんと目が合って、くすくす笑われる。


こんな恥をかかされたのは生まれて初めて!!

顔に火がついたように熱くなる。


< 46 / 177 >

この作品をシェア

pagetop