例えば君に恋しても
「実は・・・今日どこかで財布を落としてしまって」
「えっ⁉」
私の驚いた声に瑛士さんも慌てて、警察に届け出をだしたことや、カード類の使用を止めて貰った経緯を教えてくれる。
「・・・大丈夫なの?」
私の問いかけに瑛士さんは何も言わない。
この沈黙を耳で聞きながら頭の片隅で自分の預金を思い出していた。
「それと、仕事も片付いてなくて明日の予定にそっちのほうに帰れそうもないんだ。」
「えっ・・・あぁ・・・それは・・・仕方ないわよね」
「ごめん。」
申し訳なさそうな彼の声に、愛おしさを感じて、私は物わかりの良い恋人を演じるしかなくなってしまう。
本当は今すぐにでも会いたいのに。
「そういえば、事務所名義の通帳とかは無事かしら?」
「えっ?ああ・・・大丈夫だけど?」
「ホテルの宿泊費だとか、飛行機代とか、色々かかるものがあるでしょ?私、会社の通帳に送金するから安心して?」
「そんなっ!美織にそんなことしてもらうなんて悪いよ・・・」
「大丈夫よ。貯金ならあるから」
早くいつもの調子に戻って欲しくて
できるだけのことをしてあげたい。
初めて受けた相談がお金のことだったけれど、それでもそんなし難い相談をされたことも嬉しかった。
だって
夫婦になったらもっとたくさんの壁を二人で乗り越えなきゃいけなくなるんだから。