例えば君に恋しても


彼女にそんな笑顔をさせる相手がどんな人なのか少し、興味を引かれた。


玄関の前まで来てるなら、ちらっとくらいは見えるかもしれないと、でも、覗いてたなんてバレたら悪趣味だと思われかねない。

本当に、少しだけ、玄関が見える角度で覗いていると、カラカラからと小さな音を立てて引き戸を開けた絢香は、やはりそこまで来てるだろう彼氏に、嬉しそうに何かを喋っている。


顔までは見えないか。

なんてちょっと残念な気持ちで、脱水を終えた洗濯物を取り込もうとした時、ドアの隙間から見えた人影に目を奪われた。


白いTシャツに顔が少し隠れるくらいの長めの髪

一瞬上げたその顔が、雰囲気は違えど、瑛士さんに瓜二つだった。

驚きのあまり、呼吸を忘れてしまったかのように、時が止まった気がした。

跳ねる鼓動。


詰まる息。


私だけ時間が止まってしまったのか、静かな音を立てて閉まる玄関の引き戸。

もしかしたら、間違いかもしれない。

一瞬だったから・・・

それでも

胸騒ぎが止まらない。


彼が瑛士さんなわけがない。

それでも

彼かもしれない。

だって

あんなにも愛した男性を・・・


見間違えるなんてこと・・・

ある?




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