例えば君に恋しても



「なんでもないわけないでしょ・・・」

おろおろしていたはずの隼人の腕が突然、私の頭を抱きしめる。

彼のTシャツが滲んだ視界を奪った。


「俺、泣かれるのに弱いんだ。だから泣かないで?」


こんな所、誰かに見られたら誤解を招くかもしれないとわかっているのに、体が動かない。


「大丈夫だから・・・」

思いでの中の瑛士さんの姿を振り払えないように

私のせいでうろたえてる隼人から離れる事もできない。

自分自身が情けなさすぎて、余計に涙が溢れては、隼人のTシャツを濡らしていく。


「じゃあ泣き止んで?お願い」


一生懸命に私の髪を撫でる手の平。


その手の温もりが、私に新一さんの姿を思い出させた瞬間の出来ごとだった。


カラカラと小さな音を立てて開いた集合玄関の扉の音に、慌てて体を離した隼人の腕が私からちゃんと離れぬうちに、視界に飛び込んできたのは、ここにいるはずのない新一さんの姿で

状況をまるで理解できない刹那

隼人から剥ぎ取られるように奪われた体が、重心を崩して新一さんに飛び込んだ。


「何度、携帯を鳴らしても出ないと思ったら・・・」

少し、苛ついたような口調が頭上から聞こえてくる。


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