うつりというもの
しばらくして、住職が戻ってきた。

「2つの寺のお札は無事でした。まあ、対角線の2つじゃ意味がないですが。あと、慈澄殿のお弟子さんに連絡がつきました。慈澄殿は山に籠っているとのことです」

「ということは、まだご健在なんですね?」

教授がすがるように言った。

住職は頷いた。

「良かった…」

遥香達が安堵の表情を見せた。

「あの、ご住職」

遥香が住職を見た。

「はい」

「慈澄さんでも、退治することはできなかったんですか?」

「そうですね。無理でした。うつりはとても霊力が強い存在なので」

「そうですか…」

遥香はそう呟くしかなかった。

「では、お互いの知っていることを話しましょうか」

住職が、本尊の前に座った。

「そうですね」

教授がその前に座ると、その両側に遥香達も座った。


お互いの知っていることをそれぞれ話したが、それはほぼ確認で終わった。

住職も遥香達も広田三郎の調べた事を基にした知識だけだということだった。

4つの寺はそれぞれ宗派が違っていたが、慈澄と広田の申し入れで、協力していただけで、うつり対策の中心とはなり得なかった。

そこへ、赤井達がやって来た。

「宋律寺のお札は、破られ方から、近所の子供のいたずらの可能性が高いですね」

赤井は、そう言って溜め息を吐いた。

確かに、そのことで、人が4人も死ぬとは思わなかっただろう。

「何とか、5人目は防ぎたいです」

遥香が誰にともなく言った。

その台詞にみんなが遥香を見た。

そして、頷いた。


翌日、慈澄が熊野にある庵で三度目の結界のための儀式を始めたとの連絡が入った。
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