うつりというもの
「宋律寺の方ですけど、お札が半分に割られていたそうです」

遥香は電話を切ると、教授を見た。

「やっぱりか」

教授が溜め息を吐いた。

「先生、これからどうしたらいいんでしょう…」

遥香が言った。

「わからん…。結界のお札を何とかできるとしても、今、どこにいるのかもわからん」

確かに、次の被害が出ない限り、うつりがどこにいるかは分かりようもなかった。

「遥香君。あの女の子の霊はいないのか?」

教授が思い出した様に言った。

教授に言われて遥香が周りを見渡したが、本堂にはいなかった。

とりあえず、入り口の戸を開けて、境内を見てみたが、やっぱりいなかった。

「いません」

遥香が首を振った。

「そうか。もしかしたら、あの子が唯一対抗できる何かかもと思ったが…」

「そうですね…」

遥香が呟いた。

その横で黙っている季世恵と忍も、心の中ではそう思っていた。

その後は皆、無言で住職の戻りを待っていた。
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