Dance in the rain
「ねえねえ、花梨ちゃんて、翔也と付き合ってるの!?」
大きな黒のメイクボックスを広げながら、好奇心満々のカオで坪井さんが聞く。
「え、いや……そういう、わけじゃ」
「だって翔也があんな風に笑うとこ、初めてみたもん!」
「そう、なんですか?」
結構笑ってるような気がするけど。
「そうよぉ! もう、スタッフみんなびっくりしてる。翔也って、特定の彼女は作らない主義だって宣言してたから」
あぁ……恋愛はめんどくさい、だよね。
「ねえねえ、どうやってオトしたわけ? あの翔也をっ」
いや、落としたって……。
答えに困っていると。
コンコン——
「入るよー」って声とともに、日下さんが顔をのぞかせて。
「これが振り付け用のVTR。メイクしながら、見てね」
ノートパソコンをあたしの前に置くと、また慌ただしく出ていった。
……仕方ない。
もう、やるしかないよね。
リハビリ——そうだよ。
いいきっかけになるかもしれない。
あたしは心を決めると、エンターキーを押した。