Dance in the rain
「あの人に何か言われたか? お前は気にすることな」
「すごいね」
新品のスポンジみたいにカラッカラの口から吐き出された言葉は
ざらりとした違和感をまとっていて。
よそよそしく、街灯の白い光に吸い込まれた。
「……は?」
「神童、だったんだって?」
——世界の巨匠が脱帽! 類まれな天賦の才
——若き天才デザイナー、モード界に殴り込み!
——独創的なデザイン、神の手の動く瞬間
——次代のファッション界を牽引する、美貌の貴公子
潤子さんが見せてくれた業界誌のタイトルが、浮かんでは消えていく。
「あたしとは、大違い」
「……んなの、昔の話だろ」
「あたしってば、何も知らなくて。ペラペラ自分の黒歴史しゃべっちゃって。バカみたいって思ったでしょ」
「花梨」
「だから、拾ってくれたの? あんまり惨めだから、同情してくれたんだ?」
「花梨っ!」
翔也の手が、あたしの腕をきつくつかんだ。
「話を聞」
「どうしていかないの? パリ」
ビクッと、翔也の瞳が揺れた。