Dance in the rain
昨夜あたしは、寝たふりをした。
翔也とそういうこと、したくなかったわけじゃない。
一緒にパリに行こうって言ってくれたことも、すごくうれしかった。
でも……
自分の中に、彼が残ってしまうのが嫌だった。
彼の中に、あたしが残ってしまうのも、嫌だった。
きっと、離れたくなくなってしまうと思ったから。
決心が、揺らいでしまいそうな気がしたから。
大好きだよ、翔也。
くうくう子どもみたいな顔で眠り続ける翔也の頬に、そっと触れるだけのキスを残して。
廊下に出た。
自分の部屋に入って、スーツケースを引っ張りだす。
そして、ずっと前からそこにあったみたいに馴染んでしまった私物を、机や棚から引きはがし、手早く詰め込んでいく。
——私としてはね。
潤子さんの言葉が、耳元によみがえる。
——あなた込みでも構わないと思ってるの。昨夜、翔也にも提案したわ。あなたをパリに連れて行けって。