Dance in the rain

——調べさせてもらったけど、あなたダンサーなんですってね? 翔也と一緒にパリに行って、向こうのスクールに通うっていうのはどう? パリには素晴らしいダンススクールがたくさんあるし。渡航費や滞在費は、こちらで用意するから。そして、翔也をそばで支えてあげてくれないかしら?

正直、心が揺れた。今も、揺れてる。
翔也と一緒にいられる。
しかも、ダンスもできて。

でも、どうしてかな。それじゃ、ダメな気がした。
心の奥で、誰かがダメだって、言っていた。

好きだから。
あたしたちは一緒にいちゃいけない。

このまま一緒にいたら、あたしはきっと、彼に嫉妬してしまう。
昨夜、そのことがよくわかった。

彼の才能が輝いていくところを間近で見ていたら、
どんなに好きでも、愛していても、醜い嫉妬が生まれて。

そしてそれは、きっといつか、彼を傷つけて。
あたしたちは傷つけあってしまう。

だから、一緒にいちゃいけない。
少なくとも、今は、まだ。
そんな気がした。

あたしは、スーツケースを押しながら、玄関の外に出た。

パタン。
ドアを、閉めた。

チャリン。
郵便受けに、鍵を落とした。
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