Dance in the rain
でも。そうだ……もう一つ。
あたしは玄関に向かう彼を追いかけて、その背中に問いかけた。
「ねえ翔也っ」
「なんだよ、まだ何かあるのか?」
「……彼女サン、誤解したりしない?」
修羅場とか、ちょっと……ていうか、絶対避けたいんだけど?
「心配しなくても恋人とか、そういうめんどくさいの、オレいないから」
ぶっきらぼうに言って、靴に足を突っ込んだ。
「そっか、めんどくさいのは好きじゃないんだよね」
「そういうこと。だからさ、お前もオレに惚れるなよ?」
は?
「ほほほ惚れませんっ! 惚れるわけないでしょっ」
どもりながら言うと、翔也は笑いながらドアを開けた。
「じゃ、問題ないな。拾ってやるけど、それが同居の条件だから。OK?」
「お……OK」
「じゃ、いってきます」
「い、行ってらっしゃい……」
パタン——。
閉まったドアを、あたしはぼうっと見つめた。
手の中には、鍵とメモ。
確かな、小さなその重みは、あたしの心を少しだけ浮き立たせた。
昨日と違う、今日が始まる。そんな予感——
あたしはそっと、両手を握りしめた。