Dance in the rain
『あぁ、花梨?』
ハスキーな声が鼓膜に触れて、あたしはごくって息をのんだ。
昨夜のキスの感触が、一気によみがえってしまったから。
どどどうしようっ……何をしゃべったら……
言葉もなく固まるあたしの耳元。楽しそうな声が響いた。
『なかなか似合ってたぞ』
「……は?」
くくく……って、電話の向こう、くぐもった笑い声がする。
『ミケ猫ならぬ、パンダ猫』
く、くく……ぅ……。
こいつめっ……
そうか、キスなんて、あいつには何の意味もないんだよね。
誰にだって、あの程度のキス、できちゃうんだ。
あたしってば一人で舞い上がってドキドキして、バカみたいじゃない。
「あのねっ! あの落書き消すのに、一体どんだけ時間かかったと思ってんの!? お店にも遅刻しちゃって、マスターたちに迷惑……」
『今から抜けられるか?』
……は?