溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
「ねえ」
私は体ごと甲斐のほうを向き、両手でぎゅっと彼の腕をつかんだ。
恋人にはなれなくても、ペットという立場から降りるのはいやだ。たとえペットでもいいから、そばにいたい。そんなやり方、自分でも間違っていると思うけれど。
「どうした?」
……あのね、甲斐。私、あなたのことを好きになっちゃったみたい。
でも、困らせるだけってわかるから……あなたにこの気持ちは、伝えない。
好きだと気付いた瞬間に、実らないことまで見えてる恋なんて、初めてだけど。
いつか終わりが来るその日まででいい。あなたのことを、私に独占させて――。
「これからは……れ、蓮人って、呼んでも、いい?」
実らない想い。いつか散る恋。
それでも、少しでも距離を近づけたくて、勇気を出して尋ねてみる。
「いいも何も……俺は最初からそう呼べって言ってるのに、お前がなかなか呼んでくれなかっただけだろ。今さら許可なんかいらない」
一瞬面食らったように固まった蓮人だけど、すぐに笑顔でそう言ってくれたのでホッとした。
「ありがとう」
下の名前で呼ぶ権利だけでこんなに嬉しいのは、初めてかもしれない。
彼女にはなれない代わりに、そういう小さな幸せを、ひとつひとつ胸に刻んでいこう。