溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
秘書の申し出に、俺は首を横に振った。
とうとう、来たか……。まさか、会社まで直談判をしに来るとは思わなかったが、話の内容は大方想像がつく。
稀華を返せ、と……俺に、そう言いたいのだろうな。
「この部屋に連れてきてくれ。それと、二人きりで話すから、彼が来たら席を外してくれ」
「かしこまりました」
秘書が部屋を出て行くと、俺はデスクに肘をつき頭痛を堪えるように額に手を当てた。どくどくと嫌な音を立てる心臓の音が、耳の奥に響いていた。
ガチャリと副社長室のドアが開き、「こちらへどうぞ」と秘書に案内されて入ってきたひとりの男。その姿を確認し、俺は改めて思い知ることになる。
やはり、青森のライブハウスで見かけた金髪のギタリストと、同一人物である……と。
背は俺より十センチほど低く、華奢な体つき。少し病弱そうにも見える、中性的な顔立ちの美青年だ。
秘書が俺たちを残して部屋を出て行くと、俺はギッと音を立てて椅子から立ち上がり、成瀬の前に立った。
すぐにでも俺に明らかな敵意を向けてくるのだろうと予測していたが、目の前の成瀬はつかみどころのない無表情で、俺を観察するように見ている。
しばらくすると脱力したように深く息を吐き、彼はこう呟いた。
「……やっぱりすごいな、大企業の副社長ってのは。威圧感半端ないですね」
それが予想外の言葉過ぎて、いきなり喧嘩を吹っ掛けられる覚悟でいた俺は一瞬面喰った。
嫌味なのか、素直な感想なのか……それにしても威圧感を出しているつもりはなかったのだが。