溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~
「稀華」
大切なものを扱うような声で呼ばれ、鼓動はよりいっそう速くなる。
この状況、まるでキスの寸前みたい……。雰囲気にのまれてしまいそう。
そんな私の予想を裏付けるように、甲斐のキレイな顔がゆっくり迫ってきた。
思わず身を引こうとするけど、がっちり顔をつかまれているせいで動くことができない。
待って! いくらなんでもそれは“ペットと飼い主”の関係性を超えてるって……!
思わずぎゅっと目を閉じた次の瞬間、唇と思われる柔らかい感触が触れた。
でも、その場所は唇でなく……私の、鼻の頭。
おそるおそる目を開けると、にやりと意地悪く微笑む悪魔がいて。
「口にされると思った……って顔だな」
か、からかわれた……っ!
むかつきと悔しさと、とてつもない恥ずかしさで火が付いたように顔が熱くなる。
「期待させて悪かったな。……もう一度やり直すか? 今度は、唇に」
挑発するような言い方に、私の怒りのボルテージがさらに上がっていく。
「ば、ばか言わないで! 悪いけど私、好きでもない人とキスするような軽い女じゃないから!」
「ふーん。まあ誰彼構わず尻尾振るよりはその方が飼い主としても安心だ」
もう!
コイツはなんでこんなにも偉そうなのよ……!
甲斐に何か言い返してやろうと口を開いた、その瞬間だった。
――ぐうううううう。
私のお腹が、盛大に情けない音を立てて空腹を訴えた。