もう泣いてもいいよね
タケルはテーブルのところにあぐらをかいて座った。

ジーンズの上にTシャツで、ジャケットを羽織っていた。

見た目は今時の若者だ。


その時、ふと思い出した。

あの時のことを。


「タケル、小学校の時、山で…」

「ああ、あの時は大変だったよな。足滑らせてケガしたから、町の病院に運ばれてそのまま転校しちゃったもんな」

「え?」

「だからさ、おまえにまともに、さよならも言えずに、ずっと気になっていたんだよ」

タケルは頭をかきながら言った。


「…ケガして転校しただけ…だっけ?」

タケルの顔をのぞき込みながら、あらためて確かめてみた。

「そうだよ。なんで?」

タケルは怪訝そうな顔で答えた。


(やっぱり転校してたんだ…)


「私、タケルと会わなくなった時のことをよく覚えてなくて…」

「なんだよ、それ。おれのこと忘れてたの?寂しいな~」


「ごめん、でも、本当にタケル?」

なにしろ13年振りの再会だ。

分かれというのも無理がある。

「そうだよ。…あ、そだ。ほら?ここの傷、覚えてないか?」

タケルはあごの傷を指さした。


「あ、あの時の…」

それは私が木から落ちた時にタケルが下敷きになってくれて、岩に顔を打ち付けて切った傷だった。

「まだこんなに痕になってる」

「ごめんね」

「いいって。皆美はおれが守るって約束しただろ?」

「あ…」


本当にタケルだ。


「良かった…」

私は少し涙ぐんだ。

「なんだよ?おれ、かっこよかったか?」

タケルがちょっと慌てていた。

「うん。ちょっとね」

私は涙ぐんだまま笑った。




「でも、なんでうちに?」

私はインスタントの珈琲を渡しながら、突然現れた幼なじみに聞いた。


「…おまえ、会社辞めたって?」

珈琲カップをもてあそびながらタケルが言った。

「え?なんで知ってるの?」

「おまえのおばちゃんが、様子を見てきて欲しいって連絡してきたんだ」

「え?母さんが?なんでタケルに?」

頭の中は?だらけになった。

あんな辞め方だから、実家に連絡がいったのだろうか?


「まあ、おまえのとこ、中山家っていうか、特に深雪おばちゃんには、おれのじっちゃんが死ぬ前も、死んでからもいろいろ世話になってるんだぜ」
< 16 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop