もう泣いてもいいよね
明日は満月だという日、そのタケルの我慢に限度がきたらしい。

「なあ、今夜はツリーハウスに泊まろうよ」

「ツリーハウス?」

私は起き抜けに縁側でぼーっと寝ていたが、顔を上げた。

「どこにあるの?」

私とタケルの会話を聞いて、一緒に横になっていた香澄がむっくりと起きた。

「皆美が落ちた木」

タケルはそう言って、さらに自分のあごの傷を指さした。

「え?あの木?」

私は、ぼーっとしたままの香澄と顔を見合わせた。

「いつ作ったの?」

「皆美が落ちて間もなく。じっちゃんが作ってくれたんだ」

「そっか…」


タケルは、私が登りたがってたから、じっちゃんに頼んでくれたのだろう。



私が木から落ちたのは、あの日と同じ年で、父さんが病気になる直前だった。

父さんは病気がわかって半年も経たずに亡くなった。

父さんが病気になってからはそれどころじゃなくて山へは行ってない。

だから、タケルは私を誘えなかったのだろう。



「よし、行こう!」

私は急に頭がはっきりして元気になった。

「なんか、楽しそうだから、お~!」

香澄も手を挙げた。

「よっしゃ!」

タケルも嬉しそうだった。

それに、いきなり麓から子守花の咲く峰まで行くより、途中まで行ってた方が少しは楽だろう。



戸締まりをして、登山道の方へ歩き出すと、タケルがじっと家の方を見ていた。

「タケル」

私が声をかけて振り返った時は、既に笑顔だった。

「おう、早く行こうぜ」

タケルは元気よく言って、私の横を通り過ぎた。

「うん」

私はかける言葉が見つからずに、ついていくしかなかった。
 
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