もう泣いてもいいよね
子供の頃に遊び慣れた山道を、3人でじゃれながら登った。

たまに、タケルが道からちょっと入ったところのクヌギの木の裏側とかを見に行ったが、ため息混じりだった。

「やっぱ、クワガタとかいないな…」

「昔はよく取ってたよね~」

ゆっくり先に行っていた香澄が、つま先で石をころころと蹴りながら振り向いた。

私はさらに二人の後ろから歩いて、そんなやり取りを見て、今を感じていた。

「タケルって、今でもクワガタとか興味あるの?」

私が声をかけると、タケルは驚いたような顔をした。

「あったり前だろぉ?」

「はあ…」


そんな私も女の子でありながら、タケルに触発されたのか、虫は結構好きだった。

「タケル、よく虫相撲したよね」

「そうだな。あの時のクワガタとカブト、どうしたのかな…」

「あの時?」

「いや、いいんだ」

タケルは首を振ってまた歩き出した。



「あの時」「あの頃」のことはタケルにとっては、かなり記憶に刻み込まれている思い出らしい。

確かにあれが、その後私たちが13年も会えなくなった日だった。

当たり前だよね。

それなのに、私にとってあの頃の記憶が曖昧なのはなぜだろう。

大好きだったタケルと会えなくなったのに、最初、いつから会えなくなったのか思い出せなかった。

それに、今でもタケルが言ったように、そのまま入院したから会えなくなったというのがしっくりこない。

その時に、そう思った記憶がない。

なんでだろう?


私は何かを忘れている気がする。

でもまあ、タケルのこともフッと思い出したんだ。

また、何かのきっかけで思い出すかもしれない。

それに、今からあの時の場所に行くのだ。

それがきっかけになるかもしれないし…



「皆美~置いてくよ~?」

香澄がこっちを向いて手を振りながら大きな声で言った。

香澄より歩みが遅いなんて、かなり考え込みすぎていたみたいだ。

「ごめ~ん」

私は二人のところまで走った。
 
< 72 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop