嘘つきな恋人
私はなにをしているんだろう。

今は何も考えるな。

と自分に言い聞かせ、
バッグの中から歯ブラシを取り出し、洗面台で歯を磨く
鏡に映っているのは表情にない女の顔だ。

洗面台でもバスルームにも、飾り気がなく、殺風景で、
ここに住んでいるオンナは居なそうだ。と少し安心する。
急な勤務変更や、気まぐれな恋人の誘いに備えていつも持っている化粧道具や下着の入ったポーチを取り出し、化粧落としを使ってメイクを落とし、髪を上げてシャワーを浴びた。
ボディーソープを借りて掌で体を擦る。
知らない人にこれから抱かれると思うと、
体が震えるけれど、怖いと言う感情は湧かなかった。
緊張しているだけだ…

あのモテそうな王子は女の子に慣れているので、
こんな事は朝飯前なんだろう。
泣いている私を放って置けなくて連れて帰っただけだろう。

そう思って、
バスルームの中で身体を拭いて、新しい下着を身につけ、
とっくに涙で化粧なんか取れていたので、今更化粧はおかしいと、化粧水とリップだけをつけることにし、
バスタオルを体に巻きつけ、廊下に出る。

「コッチだよ。」と呼ばれ、

リビングと思われる部屋に真っ直ぐ廊下を進む。

フロアスタンドが小さな明かりをつけたリビングに置かれたベッドの上で、
三島さんがグラスを傾けている。

リビングの正面はきっと海だな。

今は見えないけど、波の音がする。
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