嘘つきな恋人
高層ホテルの上階のフレンチレストラン。

窓からみなとみらいの観覧車や、ベイブリッジや、
港が夕映えから色を変えて夜になっていくのがゆっくり見える
贅沢な窓際の席に案内される。

こういう高級な所は久しぶりかな。

剛と会うのはいつもどちらかの家だった。
勤務を合わせて休みを取るなんて誕生日や、クリスマスだけだったかな。
いつも時間があれば剛の部屋に行ってた。
家を整え、料理を作って待っているオンナは
つまらなかっただろうか?
どこかに行きたいとか、もっと一緒にいたいとか、
忙しい剛のために我慢していたはずなのに
我儘を言わずに、物分かりがよすぎる恋人は飽きられてしまうのだろうか?

わたしが美しい景色ををぼんやり見ていると、

「昔の男の事を考えてた?」

と三島さんはわたしの顔を見る。

「ご、ごめんなさい。」と慌てて俯くと、

「リンは嘘がつけないんだな。
あのアホの事を思い出してた?
ここには来たことがあったのかな?」

「いいえ。
あの人のことを思い出してた、って言うより、
…自分が…どうしたらって」

「どうしたら浮気されなかったのかって?」

「ツマラナイ女って思われてたのかなって…
いつも家にいて、ご飯作ったり、掃除したりしてた。」

「相手が誘えば良かっただけでしょ。
一緒に外に出ようって。
俺だったら、たまには外に出かけようって言うかな。
リンも外も楽しかったでしょ。」

「楽しかったです。
映画も、ショッピングも…
三島さんにTシャツ選んだりするのも…ここでの食事も」

「まだ、食事は終わってないよ。楽しんで。」と笑いかけてくれる。

「はい。」

とわたしは頷いて、綺麗に盛り付けられているお魚にナイフを入れた
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