【完】こちら王宮学園ロイヤル部
「その本、ぼくもきになってたんだけど。
へやから出なくなるとね、必然的に本から遠ざかるから。最近めっきり電子書籍しかみないせいで、紙の本を見るのはひさしぶりかな」
「、」
「どう? おもしろい?」
ベッドから身体を起こしたルアくん。
熱があるんだから寝てなきゃ、と頭では思うのに。
「おもしろいかは、わからないけど……
わたしは、すき、よ」
囚われたみたいだ。
惹きつけられて、どうしようもない。
恐怖でも哀愁でもない。
ただただ儚くて触れてしまえば壊れそうなその雰囲気がどうしようもなく美しくて、長続きしないその一瞬に、見惚れてしまう。
「はじめまして、だね」
彼がベッドを抜け出して、わたしの元へと歩み寄ってくる。
それから、わたしの前に片膝をつくその姿が、本当に王子様みたいで。
「八王子、ルア。
ロイヤル部の、会計補佐だよ」
どうしてか、すごく泣きたくなった。
泣きたくなって、声を出せないくらいに喉の奥が熱いのに、涙はまったくこぼれ落ちなくて。
「いつみが、えらんだんだよね?
……ふふ、すてきな、おひめさまだ」
それを聞いた瞬間、一粒だけ涙が頬を伝う。
細い指で、涙をぬぐってくれるルアくん。
温度のない部屋とは、裏腹に。
ルアくんは、とてもあたたかい人だった。