【完】こちら王宮学園ロイヤル部
いやいやと首を横に振るルノに、何も言わずによしよしと髪を撫でた。
椛がいつもそうやって、ぼくたちにしてくれるみたいに。
「……ルノのせいじゃないよ」
もっとはやく言ってあげればよかったね。
そしたら、こんなに深くルノのことを傷つけずに済んだかもしれないのに。
「ぼくのことは気にしなくていいんだよ、ルノ」
「なに言って、」
「王子は、ルノでしょ?」
王子に第一も第二もいらなかったんだ。
八王子の後継者はルノがいればそれでよかった。だからこの時、本当はもうひとりの王子なんて存在しなかったことにしてもよかった。──命ごと消えてしまっても、構わなかった。
だけどそうすれば、優しいルノはきっと傷ついてしまうから。
また自分のせいでぼくを失ったって、責めてしまうだろうから。
「ぼくは、ただの八王子の息子だよ」
「ルア、」
「王子の、弟ってだけ」
数日後に退院してから、ぼくは残り少ない中学に行かなくなって。
義務教育の中学はそれでもぼくを卒業させてくれたし、今も「八王子」の名前と鎖で繋がれているぼくは、王宮学園に入学した。
そのあとぼくのもとに直接来たのはその頂点に立ついつみで、「ロイヤル部に入らないか?」とそう声をかけてきた。
そこにいれば、授業は免除で、なおかつ仕事をしながらルノのそばにいられるから。
ぼくが部屋から出ないのは、ぼくが傷つくことでさらに傷ついてしまうルノが、二度と傷つかないように。
ぼくのせいで、ルノを傷つけてしまうのなら。──罪悪感という感情だけで縛ってしまう方が、よっぽど楽だった。