【完】こちら王宮学園ロイヤル部
シアターが広かったら気づかれないかもしれないけど、高校生のデート向きな映画って恋愛ものな気がする。
そうなると、男ふたりで入るのは少々キツい。
どうします?と、椛先輩を見たとき。
同じように俺を見た彼の視線が、後ろにずれた。
「あ……、」
つられるようにして、振り返る。
その先にいたのは、理事長秘書でありいつみ先輩の姉であるいくみさん。そして。
「……夕さん、」
身振り手振りで何かを話すいくみさんに、愛でるような優しい視線を向けて、うなずいてあげている夕さんの姿がある。
今日も女性の格好のままで、美女ふたりが歩いてるようにしか見えない。
夕さんは、いくみさんと仲が良い。
幼なじみで、お互いにそれ以上の感情で好きで、でも。
「……言っちまえば良いのにな」
「できることなら、そうしてるんじゃないですか?」
本当は、男女として一緒にいたいはずなのに。
夕さんは絶対に、男性の格好でいくみさんと出かけない。それにはちゃんと理由があって、割り切れない以上は、何もできなくて。
「あ……!
椛先輩、南々先輩のこと見失いましたけど……!」
はた、と我に返って振り返るけれど、もうそこに追っていたはずのふたりの姿はない。
慌てて椛先輩に声をかけたら、彼は今日も万人の女性を虜にしそうなほど甘やかな笑みを浮かべるだけ。
「映画館の中まで尾行するつもりなかったから別にいいよ〜。
それに、なんとなくもう分かったし」
「え?」