【完】こちら王宮学園ロイヤル部



漆黒の瞳に囚われる。

心の中を見透かされたみたいで、大げさに心臓が跳ねる。違いますと否定しようとしたくちびるが、上手く言葉を紡げずに震える。



「で、好きな男がいるって?」



「っ、」



「……見逃せねえ発言だな」



伸びてきた彼の指先が、赤く色づいた頬を撫でた。

暖房が帰ってきたときよりも部屋の温度を上げているけれど、それとは別の何かに体温が上がる。背中に、冷や汗が流れる。



「っ……あれはっ。

大和が勝手に言っただけで、っ、」



ぐらぐら、ぐらぐら。

自分の中心にある軸がブレる。




隠してきたはずの感情は、消せないまま。

でもそれを本当に知られてしまうのが怖くて。一度冷静になろうと、先輩から逃げるようにソファを退く。そのままの勢いで、リビングを出れば。



「勝手に言っただけなら、なんで逃げるんだよ」



当然ながら先輩はわたしを追ってくるわけで。

悠々とした足取りの彼から逃げ込んだ先は寝室。暖房のついていないここでは冷えた空気が肌を撫でるけれど、熱い今はそれが心地よくて。



「ふ、複雑な女心なんですってば……っ」



離れても先輩の匂いがすることに、まだ自分が彼のカーディガンを着ていたことに気づく。

そのせいで居た堪れなくなって、あわててボタンを外して一定の距離を置いていた彼にぽいっと投げ返す。



借りたものを投げ返すなんて失礼極まりないけど、今はそれどころじゃない。

寝室の出入り口は当然ひとつ。そして先輩がそこにいるとなれば、どうやったって逃げられない。



っ、廊下に出た時どうして玄関に逃げなかったんだわたし……!

寝室なんて逃げ道のないところに逃げるなんてばかなんじゃないの……っ。



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