不埒な専務はおねだーりん
篤典さんはいじけたように床にのの字を書きながら、さらに続けた。
「だって……同僚からしつこく交際を申し込まれているんだろう……?」
「なんで知ってるんですか!?」
お母さんにも、お兄ちゃんにも話していなかった転職をしたがった理由を、篤典さんから正確に指摘され、驚きで目を見開いた。
同期入社の男性社員にいつからかしつこく誘われるようになり、断り続けても周りの人まで巻き込んで外堀を埋めようとしてくるから、居心地が悪くなって転職先を探していたのだ。
「こういう事態が起こりうるから、うちの会社に入らないかってあれほど誘ったのに……。君ときたら……!!全然聞いてくれなかった!!」
篤典さんは膨れっ面になり唇を尖らせながら私の肩を掴んだ。
「だ、だって!!コネ入社なんて絶対肩身が狭いと思ったんですもん!!」
大学四年生の就職活動時に篤典さんに、宇田川不動産で働かないかと誘われたのは確かに事実である。
しかし、お兄ちゃんのように飛びぬけて優秀ならともかく、コネ入社の私がいけしゃあしゃあと他の優秀な学生に太刀打ちできなるはずがないと思ったのだ。
結局、私は自分の実力に見合った一般企業――といっても宇田川不動産の末端の会社に就職したというわけである。