不埒な専務はおねだーりん
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専務が執務室から出てきたのは、就業時間も終わりフロアの人間が誰一人としていなくなった9時過ぎのことである。
28階から眼下に広がる眩しい街並みを見ていた私は、帰宅しようとする篤典さんに声を掛けた。
「お疲れ様です、専務」
「まだ残っていたのかい?」
「専務に……お聞きしたいことがあって……」
何だい?と眉を潜め不機嫌そうに尋ね返す篤典さんの顔を見上げて問いかける。
「あの……浜井さんには変なおねだりをしてないって本当ですか?」
「何か聞いた?」
「専務は仕事をダシになにか要求するような卑怯な人ではないって……」
そう告げると篤典さんは、ずるずると力が抜けたようにその場にしゃがみこんだ。
「ずるいんだ、僕は……。どうしてもかずさの気を引きたかったんだよ」
視線を合わせるために同じようにしゃがみこむと、篤典さんはぷいっと私から視線を逸らした。
「どうしてそんなことをしたんですか?」
「僕の可愛いかずさがどこの誰かも知らない男にかっさわれると思ったら、嫉妬で気が狂いそうになって……つい……」
「ついって……」
まるでおもちゃを取り上げられた子供のような勝手な言い分に呆れ果ててしまう。