わたし、結婚するんですか?
「わかりました。
 では、シュレッダーにかけておきます。

 見つけたのは私と部長だけなので、誰も見ていませんから」
と言うと、非常に感謝され、お礼に洸と部長になにか贈ると言ってきた。

「いえ、結構です。
 それでは」
と洸にしては、素っ気なく、あっさりと通話を切る。

 洸は切ったスマホを見つめ、

 ……どうしよう。

 思い出してしまった。

 気持ちよく忘れていたのに、と思っていた。

 まるで、あの番号が消えていた記憶のパスワードでもあったかのように。

 そんなことを思いながら、部長に報告しようと、洸が廊下に出ると、ちょうど遥久がやってくるのが見えた。

 目が合う前に、洸は身を翻し、階段を駆け上る。

「待てっ、洸っ!」
と遥久が叫んだ。

 此処、会社ですっ、と思ったが、遥久は洸の名を呼びながら、すごい勢いで追いかけてくる。

 ひいっ、と思いながらも逃げようとしたが、二、三段飛ばしでやってくる遥久に、あっという間に確保された。
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